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愛しては、ならない
第59章 再会②
『――剛さん……』
菊野の柔らかい声が耳に届いた様な気がして、俺は顔を上げる。
大粒の雨水が容赦なく降り注ぎ、眼鏡から頬に伝い、首筋を濡らしていく。
もう、ここまで来れば濡れようがなんだろうが同じだ。
俺は伊達眼鏡を道端に放り投げ、再び走り出した。
家を目指して。
今まで、菊野が居ると分かっている時には帰るのを避けていた。
彼女が帰った時間を見計らって家に戻ると、そこかしこに彼女の甘い薫りが残っていて、胸の奥がむず痒くなった。
その薫りを消し去りたくて、俺は決まって家中の窓を全開にし、風に吹かれながら彼女を想ったのだ。
――菊野、いつ貴女は俺の中から消えてくれるんだ?
と。