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愛しては、ならない
第60章 静まらぬ嵐、吹き荒ぶ恋
「菊野――っ」
剛に腕を掴まれるが、私は振りほどこうと必死に腕を振り回す。
時おり彼の顔にバッグの紐が当たってしまい、彼は少し痛そうに顔を歪めたが、それでも私を行かせまいと手を離さない。
気が付けば、私の目から涙が溢れていた。
胸が早鐘を打ち、涙で頬は濡れて、足はガクガクと震えている。
どう見ても大人の女性の対応ではない。
四年振りに会った彼に、今度こそ『母親』として接しなければ……と思ったのに、彼の眼差しと抱擁ひとつで、そんな心構えなど跡形もなく吹っ飛んでしまう。
「お願い……離して、離して……っ……さ、悟志さんが待ってるの……」
そんな言葉が口をついて出るが、剛は熱い瞳を私に向けて言った。
「――今夜は帰さない、と言った筈です」