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愛しては、ならない
第60章 静まらぬ嵐、吹き荒ぶ恋
「菊野……これは」
彼が手に何かを掴んでゆっくりと振り返った。
その掌の中にある物を見て、私は何も言えずに自分の口を覆う。
彼はゆっくりと私に近付き、こちらにそれを向けるが、私は思わず顔を逸らす。
「菊野……これは何?……何故……今でもこうして持っているの?」
「……」
彼の顔を見れぬまま私は俯いてシーツを握り締めるしか出来ない。
聞かれるまでもない。
私はそれを毎日肌身離さず持ち歩いていた。
出掛ける時にはバッグの奥にしのばせて、家ではドレッサーの引き出しに大切にしまい、眠りにつく前に取り出しては眺めていた。
そう、それは、剛が私に贈ってくれた、ハンドクリーム。
中身が空になっても捨てられず、ずっと持っていた。
捨てる事なんてできやしなかった。
だって、これは貴方が私に初めてくれた物だから――