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愛しては、ならない
第62章 愛しては、ならない②
とにかく、剛が起きる前にここから出ていかなければならない。
剛が、また私をあの涼やかな目で捕らえてしまう前に。
あの低くて魅惑的な声で私の足を止めてしまう前に。
長くしなやかな腕が、私を絡めとってしまう前に――
髪を整えながら、また涙が滲んでくるが、そんな自分に渇を入れるように鏡を睨む。
「――菊野、いつまでも甘ったれて泣いてちゃいけないのよ……」
今度こそ思い切るのだ。
剛にもう一度熱烈に愛して貰って、最高に幸福だった。
もう、それで充分だ――
「さて……でも……着る服をどうしよう……それに……」
まだ夜明け前で、外は暗い。
天気は穏やかにはなったが、電車も動いて居ない時間なので駅まで行ったにしても――
「……タクシー呼んで帰るしかないのかしら」
私は小さく呟きながら取り敢えず身体にバスタオルを巻いてバスルームを出た。