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愛しては、ならない
第63章 once again
嗚咽さえも、喉の奥に引っ掛かって出てこない。
苦しさに胸を押さえる私の背を大きな掌で擦り、呑気な調子で悟志は言う。
「変な話……僕は君よりも大分おじいちゃんだし……いつ死ぬか分からないだろ?
まあ……今すぐじゃなくてもさ……確実に君よりも先に逝くよね」
「へ……変なこと……言わない……で」
咳き込む私を抱き締め、呟く様に彼は言った。
「頼むよ……菊野……君を責めたくないし……責めるつもりもないんだ……だから、そんな風に苦しそうにしないで……」
「そ、そんなの無理」
「無理でもなんでもだよ……僕に悪いって思うなら、僕の残り少ない人生を付き合ってくれよ」
悟志はおもむろに、胸ポケットから光る小さな物を出すと、私の左手を取り、薬指に花のモチーフの中に一粒のダイヤが埋め込まれたリングを嵌めた。
呆然とそれを見詰める私に、悟志は照れたように舌を出した。
「……実は……それさ……君が高校生の時に、渡そうと思って、でも渡せずにいたやつなんだよ……」
その言葉に、私は心底驚きリングを見、高校生の頃の記憶を辿る。