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愛しては、ならない
第63章 once again
悟志は聖書を手にして神父になりきっていた。
でも逆さまに持っているのに気付いた私は吹き出してしまう。
悟志は指で祭壇をトントン叩き芝居がかった口調で「新婦、静粛に」と言った。
笑いを堪えながら頷き、私は聖書を読み上げる彼を見上げる。
お決まりの誓いの言葉――だが、彼が唱えると特別な魔法の呪文のように思えてくる。
健やかなる時も病める時も、貴方は新婦を愛すると誓いますか?
神父の役の悟志が祭壇で言うと、新郎の悟志は急いで祭壇から降りてきて私の隣へやって来て「誓いますっ」と元気に言う。
そしてまた祭壇に上がり、髭を顎に貼り付けて――貼ろうとしたが急いでいて上手く出来ずに半端に顎からぶら下がっているが――
彼は神父になって私に問う。
――健やかなる時も病める時も、悟志を愛すると誓いますか――
その言葉を、頭でなく、心で理解した様な気がしたその瞬間(とき)、私は左手の薬指を右手で触れて、頷いていた。
こんな私だけど――貴方が望んでくれるなら、私を愛してくれるというのなら――
胸の奥にはまだ剛への愛があるけれど―――
いつか、本当に過去になるのかも知れない。
それがいつになるのかは分からない。ひょっとしたら死ぬまで忘れられないのかも知れない。
「――必ず、過去になる」
悟志は、いつの間にか私の隣にいて、両手を握り締めていた。