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愛しては、ならない
第64章 エピローグ
「ふ……ははは」
俺は頭の瘤を指で触れて、込み上げてくる笑いで身体を折り曲げた。
怪我してたら病院に行けとか――妻の間男の俺にそんな情けをかけるなんて、やっぱり貴方はお人好しだ。
きっと、自分を裏切った菊野の事も許してしまうのだろう――貴方はそう言う人だ。
愚かなほどお人好しで間抜けで、優しくて大きくて――
「は……はは」
笑いはいつの間にか涙声に変わっていた。
俺は廊下に手を付いて、赤ん坊のように這って、呼んでいた。
この世で一番、いや、唯一愛した女の名前を。
もう、居ないと分かっているのに――呼んでも届かないのに――
でも呼ばずには居られなかった。
――菊野……菊野、菊野――
声が枯れるまで、俺は立ち上がる事も出来ずに彼女を呼び続けた――