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愛しては、ならない
第10章 カーネーション
彼は私のバカな仕草を見て何と思っているのだろうか。
静かな微笑みを湛えながら上品な仕草で紅茶を飲んでいる。
私は時々不思議に思っていた。
小さな頃にまともな教育も、愛情も受けていなかった彼が、ここまで大人びて成長するには、余程この施設の職員や園長が心を砕き、手を掛けたのではないかと。
彼の何気ない立ち居振舞いや話し方、お茶の飲み方に至るまで、そこはかとない優美さが感じられる。
ここでの教育の成果なのか、本来彼が持つ素質なのか、どちらなのだろう?
(でも凄いよね……
ここの職員さん達は……
私には、そんな仕事、出来ないなあ……)
「――菊野さん?」
物思いに耽っていたら、剛が私の顔を覗き込んでいて、危うく紅茶を彼の顔に吹き掛けてしまう所だった。
「ゲホ……ゲホッ」
「大丈夫ですか?」
「ら、らいりょうぶ……
つ、剛しゃん、これ食べてみでっ?
作ってきたの!」
私は、口に袖口を宛てて赤面しているのを隠し、カップケーキを差し出した。