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愛しては、ならない
第10章 カーネーション
剛は、カップケーキの殻を見詰めながらも、何処か遠い処を見るような目をしていた。
「僕は……
両親と暮らしていた頃、食事を与えられたり与えられなかったりで……」
「――」
私は、ズキンと胸が痛むのを感じながら、彼の話を聞き逃すまいと耳を傾けた。
剛がこんな風に昔の事を私に語るのは初めてだ。
(ちゃんと、聞かなきゃ……)
私は、緊張に顔がひきつるのを感じながら、平静を装うが、それがいつまで持つのか自分にもわからない。
「――母親は、料理をしない人でした。
菓子パンを一つ僕に与えたきり、父と出掛けて暫く帰って来なかったりした事もありました」
「……っ」
酷い、という言葉が喉元に込み上げるが、口にしたら怒りが収まらなくなってしまう。
私が今、ここで激情に任せて彼の親を責めたとしても、彼が失った子供時代は取り戻せないし、時が戻り、私がその頃の彼を助けに行ける筈もないのだ。