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愛しては、ならない
第10章 カーネーション



剛は、身体をビクリと震わせた。


いつの間にか背が伸びた彼は、私と同じ位の身長になっていて、鼻先に彼の真っ直ぐな襟足の髪が当たり、ムズムズして大きなくしゃみをしてしまった。


「ごっ……ごめんなさい」

剛はこちらに向き直り、その澄んだ瞳に吸い込まれそうになり、また私は何も言えなくなってしまう。


彼の瞳が一瞬潤んだ様に見えてドキリとしたが、彼はいつもの静かな微笑を浮かべて言った。



「ありがとうございます……
菊野さん」


「――……っ」


私は、涙がまた込み上げ、ハンカチを探すが、どうやら今日忘れてしまった様だ。

またやってしまった。
大人の女性のたしなみとしてハンカチを持つのは常識だというのに、よく忘れてしまう自分の間抜けさに嫌になる。


察した彼が笑いながらボックスティッシュを差し出して来て、私は受け取り胸に抱いたまま涙やら洟を拭った。



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