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愛しては、ならない
第12章 その花は、手折(たお)られて
剛は時計を見て、
「十時か……」
と呟き、菊野が部屋から出て来ないのは相当具合が悪いのだろうかと考えた。
気になるが、女性が寝ている処を訪ねるのも、どうだろうと思う。
「明日渡すかな……」
剛は箱を手にひとりごちるが、菊野が中身を見て花の咲いた様な笑顔を浮かべるのが唐突に胸の中に浮かび、どうしても今渡したくなって来た。
ガバッと身体を起こしてドアをそっと開け、剛は菊野の居る寝室へ向かう。
――ほんの少しだけ。
少しだけ、彼女の顔を見たかった。
一秒でも早く、喜ぶのを、見たい。
やはり、泣き顔や沈んだ顔は、見たくない――
そう思ったのだ。
もし眠っていたら、そっと枕元に置いておこう――
剛の頬は、自分でも知らないうちに綻んでいた。