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愛しては、ならない
第16章 貴方との夜




降りようとすると、剛に腕を掴まれ、強引に引き寄せられてまた抱き上げられてしまった。


「つ……っ」


「真歩さん、ありがとうございました」


剛は運転席の真歩に礼儀正しく言い、頭を下げた。
真歩は左手を軽く上げてウィンクすると、車を走らせて行ってしまう。



「さあ、家に入りましょう」


剛は鍵を開けて、靴を脱ぎ、私を抱えたままリビングへ入り照明を点けた。


ソファに私をそっと降ろすと、丁寧な手付きでパンプスを脱がして玄関へ持っていく。



男の人にそんな事をされるのは初めてで、私の心臓は限界寸前まで早鐘を打っていた。



ソファに身を沈めながら一人、呼吸と速まる鼓動を落ち着かせようと深呼吸した時、スマホが鳴り、取ると悟志からだった。



『菊野?
……すまない、ちょっとトラブルがあってね、今から埼玉へ向かわなくちゃならないんだよ』


「えっ……?
そ、そうなの……?」


『そういう訳で、今夜は帰れないんだ……
今日は、祐樹も花野さんと出掛けて居ないんだよね?』


「う、うん」



『……気を付けるんだよ、菊野』



悟志の言葉に、ギクリとして思わず絶句して相槌も打てないで居ると、幾分か軽い口調で悟志が言う。



『戸締まりと、火元、あと水の出しっぱなしとかね』



「……あ、当たり前じゃない……
大丈夫、気を付けるから……」



『うん……
じゃあ、明日は帰るから……』


「はい……気を付けて……」



通話を切った時、剛がリビングに戻ってきた。


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