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愛しては、ならない
第17章 貴女との夜に



しかし、快感に酔ったのは一瞬だった。



気が付けば、組み敷いている菊野は身体をくの字に折り、顔を掌で塞ぎ苦しげに嗚咽している。


太股や、手首には、いつの間にか俺が握り締めた痕が紅く付いていた。



そんなに強くしたつもりはなかったのだが、いや、情欲でたぎった俺は、ただ自分の想いをぶつける事しか考えて居なかったのだ。



「菊野さん……っ」


「や……あ……っ……こ、怖い……っ」


菊野は子供のように泣きじゃくり、抱き締める俺の胸を叩き続け、恨み言ともつかない言葉をぶつけて来る。


「ば……バカアッ……剛さんのバカ……っ!私……私っ……」


「……怖い想いをさせて……すいません……」


彼女の涙を唇で掬い、なるべく優しく語り掛けるが、固めた拳は尚も俺の胸を打った。


「私……どうしたらいいか……わからなっ……」


「――菊野さん……」



――俺は、やはり、貴女を想ってはいけないのだろうか。
真っ直ぐに恋をぶつけても、貴女を苦しめるだけなのか?

菊野は、泣きながらしがみついてきて、俺は一瞬混乱するが、途端に背中に爪を立てられて鋭く熱い感覚が走った。


愛しい人に与えられるものなら、痛みでさえ甘く俺を蝕んでしまう。


俺は、彼女にされるがまま、しかし彼女が疲れて眠ってしまうまで、抱き締めていた。


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