この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
愛しては、ならない
第18章 私も、愛しているのに
この曲を、誰かが此処で弾いているのを聴いた――
長い長い廊下を歩く内に、自分の中で確信が強まる。
はっきりと思い出す寸前、辺りを包む闇が、カーテンを引くかの様に明るくなり、世界が全貌を私の前に晒した。
木目調の床の広い部屋。
中央に轢かれた絨毯。
そして、ピアノ。
――そうか、ここは、剛さんが居た
"希望の家"だわ……
ピアノを弾く後ろ姿に私は頬を綻ばせる。
『祐ちゃん……
素敵な曲ね』
先程から聴こえていたのはモーツアルトの
"皇帝円舞曲"。
私が彼の横へ立つと、彼は鍵盤から指を離し、低い声で言った。
「祐樹じゃありません……」
祐樹だと思っていた彼は、立ち上がり私に近付く。
祐樹に似ているが祐樹では無かった。
すらりと伸びた背、長いしなやかな手足、鋭い瞳に、突き出た喉仏――
「剛さんっ……」
私は思わず後ずさる。