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愛しては、ならない
第31章 企み
「――剛君が、菊野さんを好きで堪らない事も……
私を傷付けないように……どうやって引き離そうかって考えてる事も……」
彼女の人差し指の爪が一瞬直角に傷の真中を押して、俺は眉をしかめた。
「つ……」
「痛い?」
清崎の柔らかい笑みの中に底知れぬ闇を感じ、背中に冷たさが走る。
指の力を緩めて、彼女は身を少し屈めて傷に口付ける。
「私も痛いの……」
「――?」
「剛君が、優しくすればするほど、痛いの……凄く傷つくの……
きっと、剛君は……菊野さんにはもっと優しくしてるんだ……て考えてしまうの」
「清崎――」
彼女は俺を見上げ、可憐に笑った。
「私を、好きでしょう?」
「……」
何も答えられない自分が忌々しかった。
そう、俺は確かに清崎を好きだった。
菊野に対しての、嵐の様な激情には及ばないが、清崎の事も異性として好ましく思っている。