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愛しては、ならない
第32章 企み②
「本当に、菊野さん可愛いなあ」
「……いやいやいや……こんなおばさん捕まえて何を言うのっ……」
ドキドキする、と言うより、何だか分からないが怖かった。
彼の表情や、仕草や声色はとにかく優しくたおやかで、どちらかと言えば女性的にも見える。
けれど、彼がこちらを見て唇の端を微かに上げて瞳を煌めかせた時、言い様のない不安を感じた。
剛は、あとどのくらいで戻ってくるだろうか?
清崎と一緒だから、剛もちゃんと傷を診てもらって来るだろう……
そう考えると同時に胸の中に痛みが走る。
今頃、剛は、あんなに愛らしい彼女と肩を並べて歩いている。
街中を二人で行く様は、何ら不自然ではなく、ごく当たり前の学生カップルにしか見えないだろう。
先程、声を掛けてきた見知らぬ男性に思わず剛のことを
「息子」と言ってしまったが、あの時、ほかにどうしたら良かったのだろうか?
剛の、怒りと悲しみに曇った瞳が思い起こされて、不意に目の奥が熱くなってしまった。