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愛しては、ならない
第38章 愛憎③



小さな溜め息を耳元で吐かれて、欲に火が点りそうになる。

彼女はそうやって無自覚に俺を惑わせる。

そうだ、きっと今朝のことは俺の思い過ごしだ。

清崎の名前を出したのも、きっと貴女が可愛らしいやきもちを妬いているせいだ。

冷たく見えたのは、単に貴女が疲れていただけなのかも知れない。

悔しささえ感じてしまう。俺がこんなにも貴女の態度ひとつ、何気ない表情の変化に揺れて、ありとあらゆる憶測をして悩み、沈んだりすることを貴女は分かっているのだろうか。

こんなにも夢中な事を、貴女にどうしたら分かって貰える?

悶々としていた自分が滑稽で、笑いたくなってしまう。

それと同時に、こんなに俺を悩ませる貴女に恨み言のひとつでも言いたくなる。



「……つ……よしさ……祐樹が来るわ……」



腕の中、震える小さな声で菊野が言った。


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