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愛しては、ならない
第39章 愛憎④
森本には母親の記憶がおぼろげにしかなく、母と言うものがどんなものなのかも知らなかった。
ベビーシッターは入れ替わりが激しかった。
何度か、寝室で父が彼女らをベッドで責めているのを見たことがあった。
幼い頃には理解出来なかったが、恐らく父は好みの女性を雇っては、飽きたら解雇すると言う事を繰り返していたらしい。
辞めさせる時にはある程度の手切れ金を渡していた為、殆どの女性は文句も言わずに去っていった。
ただ一人を除いては。
彼が小学六年生の時にやって来た家政婦は、今まできた女性達とは全く違っていた。
年齢は聞かなかったが、童顔で表情がコロコロと変わる愛らしい女だった。
森本が学校で母親が居ないことをからかわれた時、彼女は当の本人よりも百倍は激昂し、相手の家に怒鳴り込むと言って聞かなかった。
彼は正直、からかいをそれ程気にしていなかったのだ。
母を恋しがる程、実の母との思い出もないからだ。
彼が成績が優秀で家が裕福ということを妬んだ同級生が、彼を攻撃するには母親が居ない事をつつくしかないと思ってやったのだろう。
だが、彼にしてみたら『僕には確かに母が居ないけど、だからなにさ?』
という気持ちしかなかった。