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愛しては、ならない
第39章 愛憎④
烈しい息遣いに混じり時おり聴こえる、明らかに父の物でない高くて甘い声。
普通に会話をする時には発せられない甘い吐息と、掠れた声を彼はよく知っていた。
何度もこの耳で聴いた。
ベッドの上で、時にはリビングのソファで、キッチンで。
自分に跨がり髪を乱して身体を揺らしながら、その声で呼んだ。
――彰、彰……貴方の顔も、身体も大好きよ……
今、その声は自分の名前ではなく父を呼んでいる。
悩ましく艶めく矯声に引き寄せられる様に、彼はドアに近付きドアノブを回した。
薄暗い部屋の中で、二つの人の形が蠢いて居る。
それを見詰めながら、何を感じているのか分からなかった。
悲しいのか、怒っているのか、驚きなのか、やっぱりか、という確信を伴う落胆なのか。
それとも殺意なのか。