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愛しては、ならない
第39章 愛憎④
翌朝、ベッドで彼は目覚めた。
瞼も頭も重くて、頬の腫れもまだ引いていない。
昨日の出来事が、全て夢だったらいいのだが、殴られた傷と耳に残る彼女と父の喘ぎ声が生々しく、夢である可能性は限りなくゼロだろう。
身体を起こすとドアが開いて、林檎とナイフと皿を載せたトレーを手に彼女が入ってきた。
彼は彼女を見上げるが、彼女は昨夜の狂乱した姿が嘘のように整然と身なりを整え、綺麗だった。
波打ち、父の手に掴まれていた黒髪は編み込まれ、美しいうなじが彼の目に入る。
彼女は柔らかく笑い、彼の側の椅子に腰掛けて林檎を剥き始めた。
『彰君、林檎好きよね』
『……』
何も言わず、相槌も打たずに彼に見詰められ、彼女は気まずそうに目を臥せてから口を開いた。
『……警察にね、お父様が迎えに来てくださって、帰ってこれたの……』
『……』
彼は、彼女の指先が僅かに震えているのを見つけるが、胸の中に込み上げるのは暗い感情だった。