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愛しては、ならない
第39章 愛憎④


キュキュキュ……

ブレーキ音と共に、運転手の怒号が辺りに響き、再び車が走り去る音が聴こえた。

森本が瞼を開けると、鞄と単語帳を投げ出し、彼女を庇うように壁に押し付けながら抱き締めている剛の背中が見えた。

何秒かして、彼女が何かを言いながら彼から離れ、剛が軽く叱る。

彼女は気落ちしたかのように俯くが、剛はそんな彼女に笑いかけてその手を取り、二人は家の中へと入っていった。



その一連の出来事は、時間にしたら一分もなかっただろう。

だが、二人の間に、ある種の感情が存在する事を森本は見抜いた。

剛が彼女を見詰める目に、彼女が剛を見詰める目には、同じ物が宿っている。

恐らく、二人は自分達の間に存る物をまだ知らないのかも知れない。

だが、気付くのもそう遠い先ではないのだろう。

森本は、自分がかつて愛した歳上の女の事を思い出していた。



そして、清崎も森本と同じ確信を持ち、爪を噛みながら彼等を見ていたのだ――



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