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気の毒な人
第1章 気の毒な人
 乗用車で現れた気の毒な人は待ち合わせの駅で私を拾うと、ラブホテルに直行した。
 ラブホテル初体験だった私は違う意味でテンションが上がっていたのだが、気の毒な人は部屋に入りテーブルの上に鍵を放り投げると、よく見かけるエロ漫画の興奮した男みたいなやたら豪快かつ機敏な動きで私をベッドの上に押し倒した。
 そして子供の頃よりは成長した私のおっぱいにむしゃぶりつきながら、

「もう無理や!結婚生活つらい!」

 と、これほどまでにスタンダードな泣き言ってあるだろうか?とこちらが疑問に感じるレベルで率直に述べ、そして私にスキダスキダと繰り返した。

 入籍後すぐ式を待たずして1人目を妊娠していた彼の妻はその頃出産を控えていた。
 スタンダードな泣き言を述べながら私の服をだいたい剥ぎ取り、例の如くダサイ服の下だけを脱ぎ捨てた勃起チンコを私の股間に押し付けている間にも、彼のケータイには何度も妻かららしい着信がブーブー鳴り響いていた。
 
 彼が私に述べるスキダという感情は本来あるべき姿のものでなく、ただ単純に私が彼にとってはイエスマンであり、何のストレスも発生しないような、ストレスのはけ口にもなれば優しく励ましてもくれる都合のいい存在だから、というのが理由であることは重々承知していたものの、私も寂しく居場所のない人間であったために、彼の言葉を受けて彼の妻に対し優越感を抱いてしまったのは事実だ。


 疲れたと夜明け前の車内で眠たそうに顔を擦っていた気の毒な人の横顔を見て、私は得体の知れない感情を胸に抱き始めていた。


 それは、気の毒な人の視線が股間に焦げ付いたときに似ていた。


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