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気の毒な人
第1章 気の毒な人
私、この人のことが好きだ。
それは実にあっけらかんとした自覚だった。
こいつは無抵抗で従順な素振りを見せている私を飼い慣らしているつもりだけど、実際には私に飼い慣らされているんじゃなかろうか。
事実、結婚してもなお私に縋りついてくるじゃないか。
クラスでも家庭内でも居場所のない私でも、こいつの心の中では大きい割合を占めているのではなかろうか。
でなければ、腹のでかい嫁を差し置いてまで私に会いに来るだろうか。
子供の頃私に「おねがい」と言って頬を摺り寄せてきたのがこいつの本性なんじゃあなかろうか。
だとしたら、こいつが私にしてきたことはすべて虚勢じゃないか。
実際に私を殺すことなんて、絶対にできないはずだ。
昔はなんてばからしいことに怯えてたんだろう。
ばからしい男じゃないか。
ばからしくて、じつに愛らしい男じゃないか。
だいたいそのような思考回路の結果、実家近くで私を下ろした気の毒な人に私は言った。
「あんたの嫁より私のがあんたのこと好きやで」
みたいなことだ。
気の毒な人は私の笑顔を前に、唖然としていた。
それから電話があるたび、私の胸は躍るようになった。
休みがちに中学を卒業して、高校に入学して、そしてはじめての夏、こうして兄のウン回忌の場面で抜け出してあんなことをさせられても、まだ私の胸は躍っている。
それは実にあっけらかんとした自覚だった。
こいつは無抵抗で従順な素振りを見せている私を飼い慣らしているつもりだけど、実際には私に飼い慣らされているんじゃなかろうか。
事実、結婚してもなお私に縋りついてくるじゃないか。
クラスでも家庭内でも居場所のない私でも、こいつの心の中では大きい割合を占めているのではなかろうか。
でなければ、腹のでかい嫁を差し置いてまで私に会いに来るだろうか。
子供の頃私に「おねがい」と言って頬を摺り寄せてきたのがこいつの本性なんじゃあなかろうか。
だとしたら、こいつが私にしてきたことはすべて虚勢じゃないか。
実際に私を殺すことなんて、絶対にできないはずだ。
昔はなんてばからしいことに怯えてたんだろう。
ばからしい男じゃないか。
ばからしくて、じつに愛らしい男じゃないか。
だいたいそのような思考回路の結果、実家近くで私を下ろした気の毒な人に私は言った。
「あんたの嫁より私のがあんたのこと好きやで」
みたいなことだ。
気の毒な人は私の笑顔を前に、唖然としていた。
それから電話があるたび、私の胸は躍るようになった。
休みがちに中学を卒業して、高校に入学して、そしてはじめての夏、こうして兄のウン回忌の場面で抜け出してあんなことをさせられても、まだ私の胸は躍っている。