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気の毒な人
第1章 気の毒な人
 そして季節も巡る。


 秋になるとシーズンがはじまる。
 大学も社会人も同じだ。


 兄のウン回忌で会ったとき、気の毒な人の妻の腹は大きかった。


 中身が出てきたのは昨日の明け方だったと、気の毒な人は神戸のスタジアムで語った。

 赤いユニフォームの観客が揺れていた。
 大学の同期の引退試合らしく、シゴトを休んだと気の毒な人は言っていた。
 斜め上に存在する分厚い肩を見上げる自分が嬉しかった。
 彼の妻コドモでなく、自分が今ここにいることが何より嬉しかった。


 試合には有名な選手が出場していた。
 観客のほとんどは彼のファンだろうと思った。
 彼は気の毒な人より少し後に、気の毒な人が卒業した強豪校と同じ地域に存在する別の強豪校を卒業している。
 ただし、強豪校となったのは最近のことだ。


「やっぱあの選手はちゃうなぁ」


 気の毒な人はそう言って関心していたが、試合には負けた。
 同期とやらにアイサツせんでええの?
 尋ねる間もなく、気の毒な人はサッサと帰り支度をはじめた。


「あとでデンワしとくわ。はよいかなキレられる」


 そう言いながらもパーキングに停めていた車を発進させた先は、市内のラブホテルだった。


「また男やで、もうええわ。俺は女が欲しかったのに。名前考えんのもだるいわ。お前考えや」


 ラブホテル特有の趣味の悪い内装には煙草の臭いが染みついていた。
 清潔なはずのシーツすらも同様で、私は昨日、気の毒な人の妻が腹の中身を出している間に私がこのシーツと似たような臭いの中で行っていたことの内容を思い出していた。


「ダイキとかは?」


 いつの間にか、気の毒な人のモノにねばっこくまとわりつくようなかたちで分泌されるようになった愛液がシーツに垂れて染みを作る。
 はよいかなキレられるらしい気の毒な人の唇に何度もキスをしながら私は彼の膝の上でゆっくり腰を前後に動かした。


「ダイキ?」


 私の腰に手を添えつつ、気の毒な人は笑った。
 三日月のように細まる瞼。
 昨日、ここのシーツと同じような臭いのシーツの上で、同じようなことをした気の毒な人と同じような風貌の男の名前を、口に出しながら。


「わるないな。どんな字で?」
「おっきいに、基本のき」
「なんぞ、変な字面やの」
「彼氏のなまえやねん」


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