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気の毒な人
第1章 気の毒な人
 3人の男の子の父である気の毒な人は、スタンダードに動揺した。
 
「なんや彼氏って」

 焦った表情が、じりじりと音を立てて身体に焦げ付いてゆく。
 
「文字通りよ」
「いやいや、おかしいやん。俺おんのに彼氏とか」
「は?あんたやってヨメおるやん」
「いやいや、せやけども、なんで彼氏なんか」
「なんで彼氏って?ハッ!そんなん理由なんかないわ。じゃあなんであんた子供おんの?答えられる?」

 この男は私のものだという快感が、繋がった場所から全身にじりじりと広がってゆく。

「いやいや、そらそうやけどな?でもそんなもん・・・だってお前は・・・」
「嫌なら別れてもええよ。でもそのかわりあんたもヨメと別れてや?」

 気の毒な人の表情が困惑を浮かべ、じきに雲行き怪しく曇ってゆく。
 虚勢をはるほど、私のことが必要なのだと理解できてじつに嬉しい。

 殴られる前に音を立ててキスをした。
 昨日、彼氏の首に絡みついたせいで「短く切れ邪魔や」と言われた髪が、今は気の毒な人の胸元にかかっている。
 いいや。汗で張り付いて、離れないのだ。


「・・・なぁ?私があんたのムスメ、生んだろか?」



 意図的にきつく締め上げ、笑って見せた私を、あの時気の毒な人はどう思ったのだろう。




 
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