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ここで待ってるから。
第14章 《かの子さんと里桜氏》魔王の午睡。
 半年前、父が亡くなり一人娘の私が水瀬出版を受け継ぐ事になった。

 小さな出版社だけど、歴史や古文に関しての専門書は研究者や専門家からは高評価をもらっている。

 大学卒業後、大手の出版社に務め編集部に二年。仕事は楽しく担当の作家も増え、順風満帆のはずだった。

 それでも、勤め先を辞め父の後を継いだのは心から父が好きだったから。
 結婚するなら、父以外考えられないくらい。

 なのに、私には昔から許婚がいる。


 先に風呂から上がり、不自由な片手で水滴を拭き取る。
 下着と部屋着を着て、リビングに行く。

 携帯に着信音。
 深夜零時を回り、訝しげに宛名をみる。

 あ、由岐。

 高尾由岐。前の勤め先の同僚だった。
 仕事を辞めてからも交流があり、飲み仲間でよき相談者の一人。

「…はい、水瀬です。」

『あ、俺。由岐。』

「うん、久しぶり。どうしたの?」

『こんな時間にごめん。急なんだけど、明日大学の後輩に飲み会誘われてて、女子を連れてこいって脅されてさ。』

「脅されて…って。また、何かやらかしたの?」

 髪の水分をタオルで拭き取り、冷蔵庫からビールを取り出す。

『何もしてないし。なぁ、腕のケガ酷くないなら頼むよ。ギプスでもいいから、お願いっ。』

 由岐のお願い、には弱い。

「…う、うん。しょがない…なぁっ?!」

 思わず語尾が上がる。

 またもや、里桜に背後を取られ服越しに胸を愛撫される。

「誰から?」

『おーい、かの子?どうした?』

 同時に聞かれ、慌てる。
 耳たぶを甘噛みされ、腰の辺りがゾワゾワする。熱い息が首筋に当たり、膝から力が抜けていく。

「う。なんでも、ない。明日、メールするから。」

 早々に携帯を切る。

「こんな時間に非常識だな。誰からだったの?」

「…高尾君。知ってるでしょう?前の会社の…。」

 ってか、里桜だってなんで全裸で部屋にいるわけ?そっちも、非常識じゃないのかな?

「で、明日飲み会行くの?」

 里桜は私の飲みかけのビールを奪う。

 目のやり場に困り、窓の外を見る。
 マンションの最上階。
 赤や黄色、青のネオンが輝く。

「行く。」

 小学生の初恋も、中学生の憧れも、高校生の告白も、みんな里桜は知っている。
 そして、男の誘いには乗らないことも。
 
 …未だに処女であることも。
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