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ここで待ってるから。
第14章 《かの子さんと里桜氏》魔王の午睡。
 疲れた身体をベッドに横たえ、昔を思い出す。

 里桜の存在を意識し出したのは、小学校入学の時だった。
 産まれてすぐに母を亡くし、父に育てられた。いや、父と里桜と…。

 入学式に父は仕事で来れず、代わりに里桜が一緒に来てくれた。その当時から、日本人離れしていた里桜は立派に保護者の代わりになってくれていた。

 手をつなぎ、桜並木を歩く。

 周りからも羨望の眼差し。

 まるで、どこかの国の王子様。


 父と里桜の母親とは若い頃、恋人同士だったけど結ばれることはなかった。

 里桜の母親は外国に行き、そこで他の人と家庭を持ち里桜と妹の莉音を産んだ。

 父は晩婚で、病弱ではあったが優しい母と結婚し私が産まれた。

 離ればなれになる時に、約束をしたらしい。

 お互いに、男女が産まれたら子供に思いを託そうと…。


 小学五年生、私は同級生の男の子にはじめて恋をした。
 中学二年生、数学の教師に恋をした。
 高校一年生、ひとつ上の先輩から告白された。

 それでも、結局は実らない。

 里桜がいたから。
 大好きな父の願いだから。

 大学生になってから、もう恋は諦めた。

 就職先でも、私に言い寄ってくる男はいたけどそれに答えることはなかった。
 
 


 ギプスのせいでなかなか、寝返りが難しい。あと一週間は外れない。
 目を閉じても眠れず、グダグダとする。

 慣れない社長業。
 里桜が側にいてくれるけど、毎日やりこなすのがやっと。

 溜め息をつき、掛け布団を被る。

 静かにしていると、ドアが開く。

「かの子、寝た?」

 里桜が部屋に入り、ベッドに腰かける。
 掛け布団から顔を出し、里桜の顔を仰ぐ。

 落とした照明の中に、整った顔のラインが浮かび上がる。

 長い睫毛。
 淡い桃色の唇。

 そっと、手が伸び私の頭を撫でる。

 サラサラと前髪をかきあげる。
 小さな頃から私の側にいた、里桜。

 転んだ私を背負ってくれた。
 迷子になった私を必死に探してくれた。
 眠れない私に、子守唄を歌ってくれた。

 おでこに静かにキスをする。

「眠るまで、側にいようか?」

 手をつなぎ、抱き寄せられる。
 私は小さく頷く。

 …ねえ、里桜。里桜は私でいいのかな。
 他に好きな人はいないのかな。

「大丈夫だよ。…おやすみ。僕の大切なお姫様。」
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