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ここで待ってるから。
第14章 《かの子さんと里桜氏》魔王の午睡。
 でも、嘘はつけない。

「…由岐と、ラブホに行って泊まってきた。」

 でも、何も無かった。
 ただ、話をしていただけ。

「…そうか。」

 里桜は心配してくれた?
 気にしてくれてる?

 ソファから立ち上がり、私の前に来る。大きな手で頭を撫で、そのまま抱き締める。


「もう、解放しようね。」


 耳元に囁き、頬にキスをする。

 …どう言う意味?

「かの子、君は長い間…君のお父さんの『想い』に囚われていたんだよ。」

 父の、想い。

「確かに僕は君が産まれた時から側にいた。そして、僕も母親の『想い』に囚われていた囚人だよ。でも、いつの間にか僕は『想い』から解放されていたんだ。」

 里桜は言葉を紡ぐ。

「だから、もし君が誰かを好きになって恋に落ちて、誰かを愛し愛されたなら、お父さんの『呪縛』から解放してあげようと思っていたんだ。」

 いつの頃からか、『想い』は『呪い』に。

 親同士の勝手な『約束』は『呪縛』に。


「…かの子、幸せになりなさい。」


 なんで、そんな寂しそうな顔をするの?

 私、里桜にそんな顔させるために産まれてきたの?

「大丈夫。かの子が好きになった人なら、きっと幸せにしてくれる。」 

 里桜は身体を離し、コートを羽織る。

「僕はいつだって、かの子の幸せだけを祈ってるから。それは、お父さんも同じだと思うよ。」

 私が好きになった人。

 それは…。

 なんで、急に突き放すの?
 私の事なんて好きじゃなかった?
 親が決めたことに、適当に付き合っていただけ?

「…少し、日本を離れるから。明日からは莉音が君のサポートをする。問題ないだろう。」

 なんで、こんな時に涙が出ないんだろう。

 胸が痛い。
 胸が苦しい。

 たった、一言里桜に言えばいい。

『里桜が好き。』

 でも、拒否されるのが恐い。

 私の一方的な想いをぶつけても、里桜が迷惑かもしれない。

 私は何処に行けばいい?


 気がつけば、夕闇が部屋に迫ってきていた。
 



 翌朝、仕事場には里桜の姿はなく妹の莉音がいた。

 莉音とは三年前、日本に来た時から親しくしている。

「兄さん、しばらく日本を離れるからかの子をよろしくって言ってた。」

 莉音の鳶色の瞳に里桜を重ねる。

「…そっか。」 

 あわただしく一週間が始まる。
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