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ここで待ってるから。
第14章 《かの子さんと里桜氏》魔王の午睡。
「きれいになってるね。しばらくは無茶しないように。一度、ヒビはいると脆いから。」

 レントゲンを診ながら、接骨院の先生はカルテを看護師にわたす。

「来週、またみせにきてね。痛みがあるようなら、遠慮せず来て下さいね。」

 午前中、診察を終え土曜の午後をもて余す。

 里桜がいなくなって、一週間がたった。
 いつも一緒にいたから。
 急にいなくなって、心にポッカリ穴が開いたみたい。悲しくて、さみしくて。

 私に、それを乗り越えるほどの恋愛はあるんだろうか…。

 自分のマンションに帰る気にもなれず、とりあえず仕事場に行く。

 四階建てのビルの、一室。営業部によってみたが、久々の土曜日休みに誰もいない。

 社長室に入り、デスクに座る。

 父がずっと、使っていた机。そっと、撫でひんやりとした感触を懐かしむ。

 父も母もいない。兄弟もいない。
 もう、この世に誰一人、肉親はいない。

 里桜すら、私の前からいなくなった。

 いったい私は何から、解放されたの?

 里桜が、私から解放されたかっただけなのね。

 机にうつ伏せ、目を閉じる。
 毎日の仕事の喧騒は無く、外からの車のクラクションや賑やかな声。
 バイクの音。
 子供の笑い声。


 その中に聞きなれた音がする。

 空耳かと思い、耳をすませる。
 目を閉じたまま、その音を聞く。

 カッ、カッ、カッ…。

 革靴が階段を鳴らす。廊下を歩く。ドアが開く。


「…ここにいたんだね、かの子。」


 目の前に、里桜が立っていた。

 今にも消えてしまいそう。

 幻のように…。

 手を伸ばして、里桜にすがりつく。
 里桜も私をきつく抱きしめる。苦しいほどの抱擁に、めまいがする。

 里桜の息づかいや鼓動が、身体をふるわせる。

「かの子、会いたかった。たった、一週間会わないだけで、こんなに苦しいなんて思わなかった。」

 必死に背中に手を回し、もう離さないように。
 二度と離れないように。

「里桜、里桜。」

 何度も何度も、その存在を確認するように。

「かの子が好きになった人は、かの子を幸せにしてくれてるかい?」

 里桜は私を覗きこむ。

「…ううん。」

 小さく首を振る。

「側に…貴方が側にいないの。私の幸せは、側に里桜がいることなのに…。」

 涙が頬を伝う。温かい、温かい涙が。
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