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ここで待ってるから。
第15章 あの頃の君へ。
「な、夏。やっぱり、無理。」

 美月はケラケラ笑いながら、俺を抱き締める。
 首筋に吐く息がかかる。

 それとは別に、何か温かいものを感じる。

 気がつけば、美月は肩を揺らし泣いていた。

「…私、本気で好きだったんだ。」

 話を聞けば、彼氏と別れたばかりで寂しかったらしい。
 人肌が恋しく、誰かに抱かれれば忘れられると思ったみたい。

「夏は凄く優しくて、気持ちよくて…。忘れられると思った。でも、無理。さっきからそれとは逆に、比べちゃう…。」

 いつもより、小さく細く見える肩を撫でる。
 そこにある、タトゥーをそっと指でなぞる。

「アイツだったらそうじゃない、アイツはこんな風にしない…駄目だよね。夏、本当にごめん。それに…。」

「それに?」

「夏のナニはデカすぎ。」

 大笑いされ、もうする気もなくなる。
 え、そんなにデカいかな?

 
 


「おい、美月。お前、俺の知り合い全員に言いふらしてるのか?」

 先日、胡桃ちゃんと会ってそんな事になってると教えてくれた。
 まったく…。
 怒りモードで電話する。

『あれ、夏。仕方ないじゃん。あんた、かなり周りの女子から気に入られてて、根掘り葉掘り聞かれるんだもん。キスはどうだったか?とか。セックスは良かったか?とか。』

「はぁ?そんじゃあ、あの時の事、話してまわってるのか?」

『勝手に尾ひれが付いてるだけだし。私は、ただ最後までしなかったよ…。って言っただけ。』

「…絶対、嘘だ。ありえん。」

『あ、そう言えば、入らなかった、とは言ったかな。アハハハ。』

 アハハハ…じゃないだろう。


「こんな話しかありませんよ。俺のはしょうもない恋愛です。」

 私はオリーブをつまみ、食べようとする。すると、夏が口を開けこちらに顔を寄せる。

 そのオリーブを夏の口に入れる。

 舌で実を受けとり、官能的な笑みを浮かべる。

「それでも。…それでも、心の中にはいつも、橙子さんがいましたよ。」

「私?」

「そう。俺の大切な初恋の人。」

 夏の手が伸び、私の頬に添える。親指が私の唇をなぞる。

 その手の温かさに安らぎを覚える。

「で、俺のってデカいんですか?」

「…。」

 とっても、いいムードだったのに。

「まぁ。いいですよ。これから、身体に聞きますから。」

 夏はいやらしく微笑む。
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