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ここで待ってるから。
第16章 嘘つき達の夜。
 夏と二人で、買い物をして遠山さんのアパートを尋ねる。

「わぁ、橙子さんこんにちは。」

「うわぁ、俺に挨拶は?」

「あ、東先輩。ども。」

 中から元気よく胡桃ちゃんが顔を出す。
 適当にあしらわれた夏はちょっと不貞腐れる。
 
「こんにちは。元気そうで、良かった。」

 胡桃ちゃんは私の荷物を受けとり、中へ促す。小綺麗にされた部屋には、遠山さんが待っていた。

「こんにちは。橙子さん、東君。」

「お邪魔します。」

 いつも見るスーツ姿ではなく、私服の遠山さんはセンスよく好印象。
 先日の事を思い出す。

 思わず抱き締めた事。

 顔が赤くなる。

 遠山さんは困ったように笑い、上着をかけるハンガーを二本差し出す。夏は二本とも受けとり、自分のコートを掛ける。

 私もコートを脱ぐ。直ぐに、夏がさりげなく受けとり掛ける。

「胡桃の我が儘に付き合ってくださり、ありがとうございます。また、大学に戻ったら暫くはこちらに来れないもので。」

「いえ。嬉しいですよ、呼んでいただいて。また、こちらに来ることがありましたら誘ってください。」

 夏は胡桃ちゃんを手伝うべく、キッチンに向かう。

 リビングにはシンプルなテーブルの上に、ガスコンロと野菜が用意されている。

「胡桃のリクエストです。この前、皆でつついた鍋が良かったらしく…。」

 眼鏡の向こう側は優しいお兄さんの顔をして、それでもどことなく寂しそうに。

 胡桃ちゃんを手伝おうと、キッチンに向かう。

「あ、東先輩、そのビール冷蔵庫に入れといてくださいね。あと、お皿はそれ。お箸ももっててください。」

「なんか、人使い荒い…。」

「働かざる者、喰うべからず。」

「はい?胡桃ちゃんのレポート、手伝ってるのに?仕事して、家庭教師もどきして…十分、がんばってるでしょう?」

「仕方ないなぁ。」

 胡桃ちゃんは、まな板の上で切っていた蒲鉾を一切れ、夏の口に入れる。

 夏の唇に胡桃ちゃんの指が触れ、急いで手を引っ込める。

「ご、ごめんなさい。…それ、報酬です。」

「…か、蒲鉾が?ありえん。もう一枚、ちょうだい。」

 胡桃ちゃんの顔が赤くなっているのを知ってか知らずか、夏はもう一度、口を開ける。

 一切れ取り、そっと口に持っていく。

「ちょっと。東先輩!」

 指ごと、くわえられ苦笑いしている。
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