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ここで待ってるから。
第16章 嘘つき達の夜。
〈楓の領分③〉


「胡桃、ずっと前から言いたいことがあるんだ。」

 開いた箱の中身は蓋を押し退け、溢れつづける。もう、自分の力では押さえ込めない。

 橙子さんの優しい魔法が僕の不安と恐怖を消してくれる。

「お兄ちゃん?」

 久々に胡桃を抱きしめる。

 柔らかく、しなやかな身体が腕にすっぽりと収まる。
 いつの間にかに、少女から女性になったんだろうね。

「…胡桃。僕は君が好きだよ。」

 胡桃は僕の胸に顔を埋めている。

「もう、自分の気持ちを押さえられない。誤魔化しきれない。…一人の男として、胡桃が好きなんだ。」

 そっと、背中に手が回される。
 胡桃は困った顔をして、目に涙を溜めている。

「この前、僕の誕生日に好きな人がいるって言って、胡桃を突き放そうとした。とても、怖かったんだ。妹として側にいた君を傷つけるなんて…。」

「…お兄ちゃん。」

「…誰か違う人を…。橙子さんを好きになったら、胡桃を忘れることができるんじゃないかと思った。…もう、後戻りが出来ないところまできていたよ。」

 背中の手がきつく力が入る。

「胡桃も同じ気持ちなら…。名前で呼んで。兄ではなく、一人の男として見てくれるなら…。」

 涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
 桃色の頬を濡らす。

 
「…楓。」


 その小さな声に、僕の中の閉じ込めた想いが一斉に飛び出していく。

 そこには、長い間付き合ってきた感情が。
 妬み、嫉み、憎しみ、哀しみ。
 諦め、惨め、悲しみ、後悔。
 それらは全て、自分の中で一緒にいた感情達。
 今、やっと解放したんだ。

 箱の中には何が残ってる?

 それは、小さく曖昧で不確かな…。

「私も、楓の事、大好き。」

 二人の間に生まれた、愛。

 大切に育ててみよう。
 枯れてしまわないように。壊れないように。
 二人のこの手で。


 柔かな唇にキスをする。
 重なる唇は温かく、静かにお互いを求める。

 時々、そっと開く口に熱い息を吐く。

 甘い、刺激的な果実。

 もっと、もっと味わいたい。貪欲にすべてを求める。

 今まで、味わったことのない魅惑の果実。

 
「胡桃、君が欲しい。」

 そこには、ただの男と女がいた。

 今までは、兄と妹として。

 今、これからは男と女として。
 君を守り、愛しつづけていくから。
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