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ここで待ってるから。
第17章 サクラサク。
電車に乗り、数駅過ぎた頃川沿いの桜が綺麗でうっとりと車内から眺める。

 流行りのライトアップされ、桜並木は淡いピンクや濃い紫に闇夜に浮かび上がる。

「ねぇ、橙子さん。降りて見に行こうか。まだ帰るには早いでしょう?」

 遠山さんの家を後にして、夏との帰宅途中。

 この時期、花見客も多くホームはごった返している。少しだけ辟易しながらも、夏が私の手をとり電車を降りる。

 もう、ライトアップの時間は終わりに近いらしく人混みの中、駅員は切符売り場の案内や誘導に声を上げている。

 夏とはぐれないように、しっかりと手を繋ぐ。

 大きな手は優しく、力強く。

 時々、後ろから着いてくる私の様子を確認する。少しだけ伏し目に、そっと微笑む。

 皆、駅に向かう波に逆らい夏と私は桜並木まで歩く。

「もう少しで、ライトアップ終わっちゃうかも。」

 川沿いの大きな公園に着く。

 ブルーシートを拡げて宴会中だったり、ベンチにはカップルがいたり。
 それでも、この時期の桜には何が心が踊る。

 空いているベンチに座り、桜を眺める。

「ちょっと待ってて。」

 立ち上がり、すぐ近付くにある自販機でコーヒー二本を買ってくる。

「ありがとう。あったかい。」

 ホットコーヒーを受けとり、頬に当てる。
 桜が咲いても、夜はまだ冷える。


「…胡桃ちゃんが、こっちに来てから相談受けてたんです。」

 缶を開けながら、夏が話し出す。

「本当の兄妹ではない事。遠山さんの事が好きだって事。遠山さんが誰かを好きな事…。」

 私は行き交う人々を見る。

「そっか。じゃあ、遅かれ早かれあの二人は結ばれていたのね。」

 ちょっと、胸が熱くなる。
 まるで、ドラマみたい。

「ちょっと、大変な道のりだけど二人が一緒なら、大丈夫よね?」

「…橙子さん。本当は少しだけ、遠山さんに惹かれてた?」

「ん?うーん。」

「うわ。そこ、悩むところですか?」

 夏の複雑な顔を覗き、ニッコリ笑う。

「惹かれる、とは違うかな。…昔の私に似ていたから。」

 臆病で慎重すぎた自分。
 目の前で、一番大切だった人を奪われた。
 泣いて、叫んでひき止めればよかったのに。
 
「遠山さんをあの頃の自分と重ねたの。可哀想な自分を解放して、もっと自由になりなさいって。」

 報われなくても。後悔する位なら…。
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