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ここで待ってるから。
第17章 サクラサク。
 パッと、一斉に桜並木のライトアップが消える。

「あ、十時になったみたいですね。」

 近隣住民の配慮か、夜十時になると自動的にライトが落とされる。
 公園と遊歩道の青いライトだけが、夜道を照らす。

 それでも、夜桜は美しく淡く、時には濃い色を浮かび上がらせる。

 薄暗い中で、宴会の後片付けをしたり駅に向かう人々でざわつく。

「…橙子さん。帰りましょうか?」

 残りのコーヒーを飲み干し、ゴミ箱に捨てる。

 思わず夏のコートを掴む。

「…や。いや…。帰りたく、ない。」

 夏の顔を見れず、俯いたままでいる。
 自分でも驚く。
 私もこんな事、言えるんだ…。

 夏は静かに私の肩を抱き寄せる。

「嬉しいです。」

 お互いに鼓動が早くなる。
 夏の声が耳元をくすぐる。

「…何が?」

「橙子さんからのおねだり。」

 抱きしめる手に力が入る。

「もう、我慢できません…。」


 夏に連れられ、薄暗い公園を抜け繁華街に出る。
 手を引かれ飲み屋の並びを過ぎ、ラブホテルが建ち並ぶ一角にたどり着く。

「う、夏。わ、わざわざラブホテルなんて行かなくても…。」

「え?だって、帰りたくないみたいだから?」

「そ、それは。確かに引き留めたけど…。まだ、桜が見たかったし、二人であんな風にデートみたいのしたことなかったから…なんか、楽しくて。手をつないでくれたのが、嬉しくて。その…。」

 夏を見ると、ニヤニヤしている。

「な、何?」

「可愛いなぁ。橙子さん。」

 両手でがっしり抱き締められ、そのままズルズルと中に連れ込まれる。

「だ、だから…。」

 勝手に事を済ませ、このラブホ最上階に部屋をとる。

 夏は私の手をとり、窓の方に行く。
 広いベランダにはジャグジーがついていて、目隠しの壁の向こうに先程の桜並木が見える。
 
「綺麗。」

「ね。来てよかったでしょう?」

「…でも、良く土曜日の夜にいきなりこんな素敵な部屋、とれたわね?」

「スマホは若者の必須アイテムですよ。情報網も半端じゃないですし。」

「威張って言わない。」

「飲み物、頼みませんか?」

 部屋のソファに座り、メニューを見る。
 カクテルもワインも揃っている。

「うん、そうね。じゃあ、さっぱりとモヒートにしようかな。」

 夏は受け付けに電話で注文する。
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