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ここで待ってるから。
第3章 嫉妬。
 昼休みに、夏からメールが来る。

『緊張しすぎて、腹痛い。助けて、橙子さん。』

 思わず、吹き出す。
 沙矢子が眉を寄せる。

「なによ、橙子。誰からのメール?」

「え?前に言ってた同居中の従兄弟。今日、初出勤でかなり参ってるみたい。」

「ふーん。えっとー聞きたいんだけど。従兄弟って言っても、結婚できるんだよね?そんな状況で、男女そろって何もないものなの?」

 何もなかったわけじゃないから、答えに詰まる。

「ちょ、待って。何、その間は。」

「…沙矢子、あのね…。」

 色々あった事を沙矢子には聞いて欲しくて、話しかけようとした時、食堂の入り口が騒つく。
 二人でそちらに顔を向けると、涼介と噂の真崎奈央が入ってきた。親しげに話しながら席に座る。
 会社一の美女が、出世街道まっしぐらの男に擦り寄ってる姿は社内ではかなりのネタのよう。

 心が騒つく。

「…橙子、行こうか。」

 沙矢子が面白くない顔をして、席を立つ。
 チラッと涼介を見ると、満更ではない顔をしながら二人で談笑している。

 優しい笑顔。
 穏やかな横顔。

 胸が痛い。

 

「橙子さん。この、資料深山チームに渡してきて欲しいんだけど。」

 私のチームリーダーの松中静音にひと抱えある、書類やフォルダーを渡される。

 今、四時五十分。

「これ渡したら、うちらのチームは終わりね。とっとと帰りましょ。」

 シングルマザーの松中さんは手際よく、仕事を分担させ残業しないようにいつも指示をくれる。

 山盛りの資料を持ち、涼介のチームの部屋に持っていく。
 扉をノックする。

「はい。開いてます。」

「…失礼します。」

 あまり自由のきかない手で、ドアを開ける。
 身体を滑りこませ、背中でドアを閉める。

「橙子か。それは、松中さんが貸してくれた資料かな?」

 涼介が近くに寄り、私の抱えている資料を受け取る。

「はい。松中さんと沖田君が整理してました。」

「ありがたいな。あとで、礼を言っとく。」

 昼間の光景を思い出し、さっさとこの場を去ろうと後ろを向く。ドアノブに手を掛けると、背後から涼介が肩を掴む。

「…橙子。なんで入ってきてから、俺の顔を見ない?」

 そのまま、涼介の手が伸びドアに鍵をかける。
 




 





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