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ここで待ってるから。
第18章 サクラサク。②
〈楓の領分〉


 あんなキス、どうかしている。

 人目を気にせず、自分の欲だけで思わず動いてしまった。

 柔らかく温かい唇。
 舌を絡ませ、熱い口腔は甘く刺激的だった。

 今までに付き合った男はいたんだろうか?

 胡桃にとって、ファーストキスだったろうか?

 いや、そんな事どうだっていい。
 それよりも、 一番気になっている事…。

 男として、胡桃を愛していいんだろうか?

 明日には、胡桃は帰ってしまう。

 今までだってこんな状況、沢山あったのに。今日は一日、何か特別な感情が渦巻いている。

 大学に帰っても、心は繋がっていられるのだろうか?

「コーヒー、置いとくね。」

「ん、ありがとう。」

 胡桃が、荷物の整理を中断しコーヒーを淹れる。

 物思いに更け、キーボードの上で手が止まっていた。

 夜、パソコンに向かい少しだけ残っていた仕事を片付ける。ここで、データを整理しておけば明日は午後に早退できる。

 また、しばらくは帰ってこれないだろうし会えなくなる。少しでも、側にいたい。

「明日、見送りに行くから。」

 荷物の整理を続ける。

 お互い気持ちが通じあった所で、やはり自分の中で理性と今まで家族として付き合っていた関係にそれ以上、進むことに不安が募る。

 しかし、男としてこの数年間の胡桃への感情は燃え上がり、引き返す事が出来ない所まできている。

 こんな他愛もない会話もしばらくは出来ない。
 ちょっとした、遠距離恋愛。

「一緒に寝ようか?」

 昔のように。

 保育園でのお化けの話が怖かったと、夜に大泣きして身体にへばりついて寝たように。
 雷と窓に打ち付ける雨の音で、眠れないと布団に潜り込んできたように。

 手を伸ばして抱きしめれば、そんな小さな頃の胡桃はいない。
 女性の身体に自分が押さえられるか。
 でも、今はただ抱き締めるだけで幸福だと思える。



「お、お兄ちゃん。なんか、恥ずかしい。」

 一緒に寝ようなんて、言わなければよかった…。

 ベッドに二人で入り、小一時間、昔の思出話や大学の事、勉強の事。仕事の事、だらだらと話し続けたものの男の身体と言うものは、案外単純に出来ている。

 パジャマ越しの、身体の温かさに目眩を覚える。

 理性がぶっ飛ぶ寸前。

 まったく、身体の反応をいかに隠すかな…。
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