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ここで待ってるから。
第19章 サクラサク。③
「あ、お祖父ちゃんから電話だ。沙矢子ちゃん、ちょっと待っててね。」

 土曜日の夜、ホテルに着き桜の木の下のテーブルに案内される。
 テーブルはかなり離れて十席ほどあるが、カップルや友人連れで埋まっている。
 席に着き、コースの説明を受け私は赤いワインを。小雪さんはやはり緊急呼び出しのために、ノンアルコールのカクテルを頼む。

 小雪さんは慌ただしく席を立つ。

 やはり、普通の医師だろうが動物の先生だろうが命が一番大事。

 それは、わかってるけど。結局、あれからメールも電話もない。小雪さんとお祖父ちゃん先生だけが誕生日の事を気にかけてくれた。

 ボーッと桜を眺める。

 少しだけ風に花びらが落ちる。

 会いたいな。

「田畑さん?」

 不意に後ろから声をかけられる。
 聞いたことがある。

 振り向くと、スーツを来た男性が立っている。

「…い、石黒さん?」

「君がいるってことは、今夜のディナーの相手は橙子かな?」

 変わらないその、いやらしい笑い方。
 
「いつ、日本に帰って来たんですか?」

「昨日だよ。今日はこのホテルに友人の結婚披露宴に呼ばれてね。さっき、君をロビーで見かけたから、もしやと思い探したんだ。」

「…残念ですが、今夜は橙子と一緒じゃあありません。」

 座っている私に、石黒は近づき耳元で囁く。

「橙子と連絡取りたいんだ。あれから、携帯もメアドも変えてしまったようで。頼むよ。沙矢子さん。」

 うわぁ、近いし。うざいなぁ。
 せっかく楽しもうとした矢先に、一番出会いたくない男。

 なれなれしく、肩を触ってくる。
 ゾワゾワと悪寒が走る。
 人生の中で生理的に無理な人間はこの男しかいない。

「さ、触らないでください。」

 肩に置かれた手を祓おうとしたが、軽く手首を捕まれる。
 周りを気にしているのか、冷ややかな笑顔。でも、目が笑っていない。

「ちょっ、とやめて…。」

 席を立ち、追い払おうとした時に私と石黒の間に手が差し伸べられる。

「何かな?君は。このホテルの人間かい?それとも客かな?どちらにしても、君には関係な…。」

 割って入ってきた人物は石黒よりかなり背が高く、見下ろしている。

 ホテルの従業員かと思い、顔を上げる。

「僕の連れが何か?」

 そこには、スーツ姿の総一朗君がいた。
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