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ここで待ってるから。
第20章 サクラサク。④
 店側の配慮に、別室に源藤一族が集まり話し合いをすることになった。

「…さてと、涼介。どうしようか?」

 とりあえず、姉さんと敦彦さんと三人で懐石料理をいただく。

「まぁ、まだ見合いの段階なので俺は何の問題も無いですが。姉さんと敦彦さんにはご足労をかけました。」

「いや、いや。なかなか、うん。楽しかったよ。」

 敦彦さんは笑いを耐えている。
 姉さんは敦彦さんの肩を、力強く叩く。

「…笑わない。」

 この二人の姿を見ると、家庭を持つのも悪くないと思えるようになっていた。

 今までに付き合った女。
 今いるセフレ。
 これから出会うだろう女。

 どの女が自分と一緒になるのだろうか。

「涼介、あなたは自由に生きなさい。好きなように、思うように。七緒さん…あなたのお母さんに縛られなくていいんだからね。」

「…ありがとう、姉さん。」



 とりあえず、食事が終わり姉さんと敦彦さんは仕事の関係で帰る事になった。

 自分も帰れば良いのだが、ふっ、と見た庭の桜の木に目を奪われる。

 見事な幹に、淡い桜の花が満開に咲き誇る。

 すこしの風にハラハラと落ちる花びらが美しい。

 女将に許可をもらい、庭に出る。
 そっと、幹に触れるとひんやりとして心地よい。

 しばらく、そっと寄りかかり目を瞑る。



「あの…。」

 背後から声がかかる。

 振り返ると、そこに桜の花の精霊がいた。

 風が黒髪を揺らし、桜の花びらをまとい蠱惑な唇に心を震わせる。

「先程は大変申し訳ありませんでした。お見合いの席なのに、あんな醜態を晒してしまいまして…。」

 部屋に飛び込んできた勢いは無く、伏し目がちにうつむく。少女の柔らかさと、女の堅実さを持った…源藤真昼。

 美しい。

「で、でもお姉ちゃんとクレイは愛し合っています。それに…。」

「…いえ。今回の事は縁がなかったと。ただ、それだけの事ですのであまり、気にしないで頂きたい。」

「怒ってはいませんか?」

「怒ってはいませんよ。」

 クスッ、と笑い真昼をじっと見る。
 緊張しているのか、手が震えている。
 
「…あの。」

 すっ、と顔を上げる。

「…私とお見合いしてくれませんか?」

 思わぬ申し出に、大笑いする。

 きっと、出会いのきっかけなんてこんなものなんだろう。
 
 静かに物語が始まる。
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