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ここで待ってるから。
第21章 サクラサク。⑤
 縁側に緑茶と茶菓子の入った器が並べてある。

 整った庭に、一本の桜が咲き誇っている。

「もう、葉が出てしまってますが立派な桜でしょう。」

 佐々先生は私と朝陽先生に座布団を進める。
 日中の暖かさに、春を感じる。

「この桜は、妻が植えたモノなんですよ。自分が死んだら、僕が寂しがるだろうって。桜なら、春には必ずや花をつけるでしょう…ってね。」

「確かに、立派な桜ですね。佐々先生の奥様は素晴らしい。」

 朝陽先生はお茶を飲み、しばらく桜をみつめる。

「かの子さん、ちょっといただいた資料を見せてもらいますよ。朝陽君、お相手願いますね。」

 そう言って、佐々先生は部屋の奥に消える。

 しばらく、沈黙が続くが不快ではない。
 むしろ心地よく、どこか懐かしい。

「…父は私の事を何と言っていましたか?」

「不器用で、まじめで欲がなく、世間に流される事のない頑固な…愛しい娘、とおっしゃってましたよ。心配なのは、もっと自分の欲求に素直になってほしいとも。」

 暖かい日射しの中、サワサワと桜が揺れる。

「欲しいものは、欲しいと言葉にしなくては。もっと、自由に生きなさい。もっと、欲深く強欲に自分の気持ちを開放してみてはどうですか?」

 私の欲しいもの。

「…佐々先生の奥様は何やら、妖かしか何かだったのでしょうか?ほら、この桜に魅せられまた一匹、人外がやってきましたよ。」

 朝陽先生は桜の木の方に指をさす。

 ハラハラと散る桜の花びらの間に、人影を見る。

 淡い茶色の髪に、今はエメラルドのような瞳。白磁の肌に淡い桃色の唇。

「…里桜。」

 私が欲して止まない。その人、里桜がいる。

 私だけの里桜。

「…かの子。心配で来てしまった。」

「うん。」

「どんなに、君を愛しているか。どんなに、君を必要としているか…わかるかい?」

「…私。私も…。」

 今、この心を言葉にして伝えなくては…。

 私の、この気持ちを。

「里桜、私の側にずっといて。私だけを愛して…。」

 里桜は静かに笑う。

「…やっと、かの子の言葉を聞けた。」

 両手を広げ、私の居るべき場所をみつけた。

「でも誰かに、早く会いたいとか、愛してるよとか言ってたでしょう?」

「…確かに。でも、相手は母だよ。今度、こちらに来るからね。会ってくれる?」

 里桜はクスクス笑う。
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