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ここで待ってるから。
第22章 あの頃の君へ。②
 土曜日、一日を二人でベッドで過ごす。

 裸のまま、抱き合い気がつけばお互い身体を重ねる。

「…橙子…。君は…。」

 何度目かのセックスの後、境さんは私の頭を撫でる。それが、くすぐったくて幸せな時間。

「何?」

「…なんて言ったらいいんだろう。君と過ごす一緒の時間は、優しくて居心地がいい…。」

「そんな事、言われたのはじめて。」

「そうか…。もう、離れられないくらい君に溺れている…。」

 幸せだと感じた。

 私も、境さんに溺れている。

 このまま、幸福が続くと思っていた。



「誰?あんた。」

 いきなり、部屋に女性が入ってくる。

 え?

「う、うわぁ。聖子…な、なんで?」

「なんでじゃないでしょう?!ちょっと、光流。これ、どういう事?誰よ、その女。」

 聖子と呼ばれた女性は、かなりの勢いで怒っている。私も、状況を冷静に判断する。

 境さんのひどい慌てよう。

 よくみれば、相手の女性は妊婦。かなり、お腹が大きい。

「…ごめん。」

 私に向き直り、境さんは頭を下げる。

 ありえない。

 信じられない。

 こんな裏切り。



 泣きながらマンションを出ていく。

 自分が情けない。

 怒りより、悲しみばかり私を責める。

「…バカみたい。」

 


「そのあと、数日間はやけ酒。あ、もちろん沙矢子とね。もう、男なんか死んでしまえって、大荒れだった。」

 涼介は目を細めて、大笑いしている。

「な、なにか可笑しい?」

「い。いや。悪い。悪い。笑うつもりは、ないんだが…。ふっ。」
 
 なにが、ふっ?

「笑いたいなら、笑ってよ。今から思えば、笑い話にはなってるんだから。でも、その後の恋愛は…今も辛いかな。」

「俺に出会う前?」

「…うん。」

「橙子の、私なんてつまらない女ですよ。…俺とはじめて交わした会話がこんなだった。まだ、覚えているよ。」

 お互い、何杯目かのお酒をたのむ。

 久々に、涼介と話せてよかった。

 なんとなく、夏の事が後ろめたく申し訳なく。

 天秤にかけてしまった事を。
 夏を選んでしまった事を。

「…次の恋愛は話したくなければ、話さなくてもいい。ただ、聞いてやることしかできない。受け止めるのはあくまで、自分なんだからな。」

 涼介は煙草に火をつける。

 紫の煙がゆれている。
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