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ここで待ってるから。
第22章 あの頃の君へ。②
 傷心の私に、一人の男性が近づいてきた。

 石黒克也。
 
 営業部だけど、担当地区が違うのであまり接点はなかった。境さんとの事は知らなかっただろうけど、変な時期の異動に何か感じていたのかもしれない。


 自暴自棄になって、付き合った。

 身体の関係だけでも十分だった。

「なんで、私に声をかけたの?」

 付き合いだして、少したってから疑問になり聞いてみた。

「…前に、境から君の話を聞いていた。いい女だと。それを聞いてから、どんな手段を取ってでも手に入れたいと思ったんだ。」

「いい女って…。それは、性格かしら?それとも、セックスの相手として?」

「…側にいるだけで、不思議と安らぐ。」

 私は石黒にのめり込んだ。

 沙矢子は毛嫌いしていたけど、時々見せる傲慢さや世の中を冷ややかな目でみるくせに、誰かに愛情を求める仕草が愛しくなっていた。

 それでも境さんの事があってから、男に対して不信感しかなかった。
 あくまで、身体の関係と割りきって付き合った。

 心の中では、石黒の身体も心も求めていた。



 小暮真理子。

 受け付けにいた彼女は、前から石黒にちょっかいを出していた。

 石黒も満更ではなかったんだろうな。

 身体の関係と割りきった私より、若くて愛想が良くて気立ての良い女の方に心が動いていった。

 面倒臭くなって、追いかけるのを止めてしまった。

 本当は好きなのに。

 もっと、すがればいいのに。

 奪い返せば良かったのに。

 心では泣いていた。私の大切な人を返して。


 石黒が海外事業部に異動になった。

 そんな中、小暮真理子は追い討ちをかけるように私を殻に閉じ込めるような言葉を放った。

『貴女はつまらない女ですって。石黒が言ってたわよ。』

 薄気味悪い声がする。
 頭に響く、二度と聞きたくない声が。

『私と石黒が二股してても、怒りも泣きもしないって。付き合っている意味あるのかしら?』

 あの女が嗤う。
 真っ赤な唇に、白い歯。
 病的な青白い肌。

『あの人に、貴女のどこが良いのか聞いてみたのよ。ねぇ、知りたい?』

 わかってる。

 あなたに言われなくても。

 私は、もう恋なんてしない。

 わかってる。つまらない女なんだから…。

 
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