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ここで待ってるから。
第27章 螺旋の迷路。
「石黒さん、お帰りなさい。相席よろしいですか?」

「あちらの生活はどうでしたか?色々、お聞きしたいのですが…。」

「歓迎会するので、ご都合のよろしい日など…。」



 こんな会話がランチ時の食堂に響き渡る。

 一人の男に群がる女子達。

「うわぁ…。最悪。外に食べに行けば良かったね。」

 沙矢子は面白くなさそうに、カレーピラフをつつく。私は、サラダにドレッシングをかけ食べはじめる。

「まぁ、予想はついてたから。」

 石黒克也。35歳。独身ときたら女子達は群がるわよね。海外転勤から本社に戻され、また営業に戻るらしい。

 本社勤めとなれば、機会は少ないけど会うこともあるでしょう。

「…何で橙子はそんなに冷静な態度なの?」

 確かにあの時の恋愛は苦しくて、悲しいだけだった。

 でも、今は違う気がする。

「何でかしらね。」

「…今、ちゃんとした恋愛してるから?」

「うーん?ちゃんと、か分からないけど。そうね。私が愛した分、夏から返ってくるから。」

「お、おー。昼間っから、ご馳走さま。」

 そんな、他愛もない会話の中に少しだけよぎる近い未来。

 この先の不安定さは、まだ拭えない。

「あ。そうだ、橙子。この前、ばったりホテルで石黒さんに会った話し、したっけ?」

「…聞いてない。」

 初耳なんですけど?

「ホテルで総一朗君とディナーに行った時に、向こうは結婚式の披露宴に招待されてたみたいなの。その時、なんだか橙子に会いたがっていたけど。」

「…今更?どうして?」

「さぁ?」

 そんな事を言われたら、逆に意識してしまうんですけど。

 なるべく、視界に入らないように沙矢子の方に身体を向ける。時々、視線を感じるのは自意識過剰になってるから。

 時間を見ようと、携帯を覗くと夏からメールが届いていた。

『今日、橙子さんの会社近くで外回りなんだ。帰り、迎えに行くね。』

 小さな出版社に勤める夏は、色々な仕事をこなしてるみたい。編集も、営業も。私も仕事に集中しなくちゃね。

 メールの返事をして、さっさと食事をする。

「あら、噂のいとこ君から?」

「…いつ噂したかしら?」

 食事が終わり、食器を片付けようと席を立つと談笑していた石黒も立つ。

 意識しないようにしていたが、長身の彼は立ち上がるだけで視界に入る。

「波村さん。」
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