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ここで待ってるから。
第27章 螺旋の迷路。
「…残念だな。会議の呼び出しメール。」

 携帯にメールが届いたようで、操作しながら給湯室のドアを開ける。

 石黒は私の顔をその手で包み、愛しそうに頬を撫でる。

「…今は誰かと付き合っているのかな?」

「いるわ。ちゃんと…。付き合ってる人位…。」

 付き合ってる人…。

「そうか。それは、残念…。」

 石黒は私を先に部屋から出す。

 別れ際、彼を見ると寂しそうに微笑んでいる。

「…君が誰かのモノだと言うのなら、俺に振り向くまでアタックしてもいいかな?」

「…はい?」

「あの時、どれだけ君を大切に思っていたか。手放すべきじゃなかったんだ…。今更、後悔しても遅いから。他の男のモノなら奪いたくなる。」

「…本当に、今更。あの時、貴方が手放さなかったら…どうだったのかしら。残念だけど、貴方にはもう振り向く事はないわ。絶対に。」



 石黒と別れて、化粧室に飛び込む。

 彼に触れられた場所が熱く感じる。

 二年前の想いが、思い出される。苦しい悲しい思いでの中、自分なりに彼を愛していたのに気がつく。

 身体を重ねるだけの関係だったとしても、彼も私を愛していてくれたのが少しだけ嬉しかった。

 そして、今はそれ以上に夏への愛が溢れている。

 夏に会いたい。

 今すぐにでも、愛し合いたい。

 キスをして、触れて、抱かれたい。

 昼休みの時間が終わるギリギリに、夏の声が聞きたくて思わず携帯にかける。

 何回目の呼び出しに、夏が出る。

『橙子さん?どうしたんですか?』

 夏の声に心から安堵する。優しい、声色は心に響く。

「ううん。ごめんね。変な時間に…。」

『今、どこからかけてるんですか?』

「…トイレの個室から。どうしても、夏の声が聞きたくて…。本当にごめん。また、帰りに…。」

『あっ。待って。』

 携帯を切ろうとすると夏に止められる。

「ん?何?」

『…周りに誰かいますか?』

 もうすぐ、始業時間になるからトイレには私しかいない。

「私しかいないよ。何で?」

 夏はちょっとだけ考え、間が空く。

『…橙子さん。好きです。』

「う、うん。…私も、好き。」

『…じゃあ、ほら。服の上から自分の胸に手を当てて。自分でおっぱい、揉んでください。』

「…夏?」

『早く。俺の言うこと、ちゃんと聞かなきゃ駄目ですよ。』
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