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ここで待ってるから。
第27章 螺旋の迷路。
 言葉の意味が分からない。

 理解できない。

 ちがう。理解できないのではなく、理解したくないんだ。

 石黒と久し振りに会って、会話した時なんとなく感じたのは、石黒はまだ私を好きなんじゃないかって…。

 決して、自惚れではなく。傲りでもなく。

 二年前の違和感は、そのまま曖昧にしておけばよかった。

 午後はまったく仕事にならず、ただ時間が過ぎていくだけだった。



 終業後、会社を出ると携帯を片手に夏が立っていた。

「お疲れ様、橙子さん。今、連絡するところだったんです。」

「うん。夏もお疲れ様。帰ろうか。」

 二人で駅に向かう。

 なんとなく、昼間のトイレの事を思い出してしまいまともに夏を見ることができない。

 仕方なく、今夜の献立を考える。

 うーん。唐揚げにサラダかな。

「橙子。」

 いきなり後ろから肩をつかまれ、驚きながら振り向く。

「…石黒さん?」

 走ってきたのか、息を切らしている。

 夏はチラッと私を見る。

「はぁ、はぁ…。これ。」

 スッと名刺を一枚、差し出される。

「…田畑さんに君の新しい携帯の番号を聞こうとしたら、怒られたよ。そんな事、自分で聞きなさいって。」

「は、はぁ。」

「いつでもいいから、連絡してほしい。」

 目の前に差し出された名刺には、石黒の携帯の番号が書かれていた。

 夏が側にいる。取るか迷う。

 夏は彼が誰だか知らないはず。でも…。

「…あの時、何故別れなくてはならなかったか…。ちゃんと話がしたい。」

 あの二年前の別れに、これ以上理由が必要なのだろうか?

 二人の間には見せかけの愛があっただけ。

 貴方には大切な人がいただけ。

 私には貴方といたいと言う想いがなかっただけ。

 いったい、これ以上にどんな理由があると言うのだろうか。

「…君とは、つまらない感情や気持ちで付き合っていたつもりはなかった…。」

 石黒の目を見て、私の中の何かが揺れた。

 差し出された名刺を受けとる。

「…あの時の本当の事を知りたいだけ。」

 自分に対し、夏に対して言い訳を言葉にする。

「いつ連絡するかはわからないけど。」

「それでいいから。」

 石黒は静かに微笑む。

「…夏。帰ろう。」

 夏は何かを察したのか、私の手を取りつなぐ。

 石黒を見返ることなく、駅に向かう。 
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