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ここで待ってるから。
第27章 螺旋の迷路。
「…それをあの女から聞いて、貴方とはもう別れようと思ったの。」

『…そうか。』

 少し沈黙が続く。

『今から会えないかな?』

「…今から?」

『…住むところも変えたのかな?』

「そこは変わってない。前から住んでるマンションだけど…。」

 夏は出掛けてるけどいつ帰ってくるかわからない。石黒と会ってたなんて知ったら、ますます傷つくだろうし。

『マンションの駐車場でいいから。…渡したい物があるんだ。渡したらすぐに帰るよ。』

 石黒は私が悩んでいるのを察している。

「…わかった。三十分後位かしら?」

『そうだね。駐車場に着いたら連絡するよ。』

 通話を切った後、少しだけ躊躇う。

 渡すもの?なんだろう。

 



 夏は帰る気配もなく、ただ時間が過ぎていった。

 駐車場の隅で待っていると、一台の車が入ってきた。乗っていたのは石黒だった。

「…すまない。ずっと、待っていたのか?」

「あ、今さっき。」

 本当はあれからずっと外にいた。会いたかったわけじゃないけど、部屋に一人でいるのが辛かった。

「で、何を渡したかったの?」

 石黒は降りる気配はなく、運転席側の窓を降ろし上着の内ポケットから何かを差し出す。

「…二年前、君に渡したかった物だよ。」

 手を出して受けとる。

 グレーの小さな箱だった。

「君とは身体だけの関係だった。境と別れたばかりの寂しさに漬け込んで出来た関係に、最初は愛なんてなかった。」

 箱を開けると、ダイヤのついた指輪が収まっていた。

「君と付き合っていくうちに、いつの間にかに心も身体も虜になっていた。君のいない未来などいらないと思っていたよ。」

「…これって。」

「…ちゃんとプロポーズしようと思っていたんだ。だけど、小暮君のストーカー度合いが半端無くてね。あまり人の事をとやかく言いたくはないが、毎日の沢山のメールや着信。自宅に入り込まれた時はゾッとしたよ。拒否すれば、君にも危害を加えると脅されていたんだ。」

「…だから、私と別れたのね。私を守るために?」

「そうだよ。今更、綺麗事や自分の保身の為に弁解する気はないけど。あの時はそうするしかなかった。会社に間に入ってもらい、自分はニューヨークに転勤。小暮君は実家に帰ったよ。」

 当時、自分の事しか考えていなかった。

 周りの状況も考えずに。
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