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ここで待ってるから。
第28章 ここで待ってるから。①
「…はぁ…。」

「…あんたの溜め息は、自業自得。身から出た錆。因果応報。」

 沙矢子と二人で居酒屋で一升瓶を抱えて、何回目の溜め息だろうか。朝も夜も尽きることない、後悔の溜め息。

「橙子が悪い。」

「…わかってる。」

「二十代前半の繊細な心を持った青年を、アラサー女が虐めた結果がこれでしょうに。」

「…知ってる。」

「何、被害者ぶってるの?かわいそうなのは、いとこ君でしょ?」

「被害者ぶってなんかいないし、私が夏をいじめたつもりもないし。」

 私が石黒とのやりとりの中、夏は誤解をしてその夜にマンションから必用な荷物だけ持って出ていってしまった。

 私が指輪をはめて、プロポーズを受けたと勘違いしたまま。

 それから、丸々三週間。携帯にも出ないし、メールの返信もない。私もくどくどと、誤解を解くような内容を書く気力もなく、引き留めすがる事もしなかった。

 いつもの事。去るものは追わず。

 今までの面倒臭い恋愛がもたらした、私の勝手な我が儘。

「…仕事には行ってるのかな?」

「それは、大丈夫みたい。夏のお母さんに、私のおばにそれとなく聞いたから。」

 夏は実家や親戚達には、仕事も慣れて収入もある程度落ち着いたから一人で暮らすと話したらしい。今までのお礼が、おばさんから連絡がきた。

「…夏はもう、私の事なんて嫌いなんだろうね。」

 でも、あんなに私を好きでいてくれたのに。

 向こうだって、夏だってもっと石黒との事を聞いてくれたらよかったのに。夏だって、すがってくれたらよかったのに。

「…もっと追いかけてくれたら良かったのに。」

「それは、ズルいでしょう?」

 沙矢子は呆れながら、刺身に手を伸ばす。

「あんたは、いとこ君をどうしたいの?自分の回りに飾るだけならそんなの本当の恋愛なんかじゃないわよ。彼はペットでもない。自分の思い通りにならないからって、あんたの側を離れたことを彼のせいにしちゃ駄目。」

「…沙矢子。」

「真剣に話さないと。橙子はいとこ君をあきらめたいの?そんな程度の恋愛だったの?…自分に素直になりなさい。橙子は今までの恋愛で学んだのは、逃げることばかり。違うでしょ?本当にしなくちゃいけない事って。」

 自分に素直になる。じゃあ、私はどうしたいの?

 そんなの…。

「そんなの沙矢子に言われなくてもわかってる。」
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