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ここで待ってるから。
第28章 ここで待ってるから。①
 しかし、周囲を見渡すがはじめてくる場所に見覚えも無く途方にくれる。

 とりあえず、下に降りて背負って登れるかな。

 同じような背丈に不安はある。

 意を決して、慎重に穴の中に入る。

「…大丈夫?夏。」

 下に着き、夏の様子を見る。手で身体に触れ、怪我の有無を確認する。

「痛いところはない?」

「…ん。あ、足…痛い。」

「頭は?他は?」

「平気。ごめんなさい…橙子ちゃん。」

 足を触るが折れている様子はない。でも、いきなり起こすのは良くないと思い頭をゆっくり抱え暫く膝枕をする。

「…もっと、一杯…採りたかったんだ。それで、それでね。橙子ちゃんにあげたかった。」

「…私に?」

 中学生が、それも女子がもらってもたいして嬉しくないんだけど。

「いつも、一緒に遊んでくれるから。」

 上が下の子供達を見るのは当たり前。沢山、いとこがいるなら尚更。

「…そっか。」

 私は素っ気なく答える。夏はそれでも、にこにこしている。

「…僕ね、橙子ちゃん大好きだよ。」

「うん。」

「でも、どんどん行っちゃうのは悲しい。」

「ん?」

「みんな、中学生になって高校生になって。僕だけずっと小学生のままなんだ。」

 すねて、目を閉じる。

「…だから、一杯プレゼントあげたら橙子ちゃん僕の側からいなくならないかな…って。もっと、僕の事好きになって欲しい。ずっと側にいて欲しい…。」

「…夏。」

 どんどん、この田舎を離れていく人達に置いていかれる疎外感。

 年下の夏は最後に人生の選択をするんだろう。

 この地に生きるか。この地を去るか。

 その選択に一人で迷いながら。

 ううん。夏。夏が私を心から必要だと思ってくれるなら。

「…大丈夫だから。ちゃんと…。」





 車内のアナウンスと同時に、マナーモードにしていなかった携帯が鳴り出す。

 実家に帰る電車の中で仕事の疲れか熟睡していた。

 アナウンスは終着駅の案内をはじめ、まばらな乗客たちは手荷物を整える。

 携帯は母からのメールで、駅に車で迎えに来てくれたようだ。あと、数分で到着する。

 明日のお見合いに、何を期待をする。

 新しい出会いに。

 新しい世界に。

 そこに、夏はいない。

 私の選択する未来に夏はいないのだろうか。

 夏が選択する未来に私はいないのだろうか。
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