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ここで待ってるから。
第28章 ここで待ってるから。①
「ああ、そんな事あったねぇ。」

 深夜、零時過ぎて自宅に着く。

 荷物を自分の部屋に置き、母の淹れてくれたお茶を飲む。

 電車の中で見た夢を母に話す。

「あの日、朝起きてあなたと夏がいないって大騒ぎになったのよね。」

「うん。確か、見つけてくれたのは昼前だっけ?」

「そうだったね。みんなが山を探してくれて、神社の裏の奥の方で穴に落ちていたんだよ。」

「…夏が持っていた、飴や水筒のお茶に助けられたわ。」

 母は思い出したのか、クスクス笑う。

「見つけた時、あんた達、イビキかきながら仲良く寝てるんだもん。こっちは、必死で探してたのに。まぁ今なら笑える思出話なんだけどね。」

 まぁ、その時は必死で命がけで大変な出来事だけど最後には笑いながら話せる思い出になる。

 どんな事も。どんな出会いも。

 今までの事だって、これからの事だって夏と一緒なら大切な思い出になるのに。

 お茶を飲み干し、明日の予定を確認する。

「とりあえず、明日の話なんだけど。」

 何時にどこで、どんな方とお見合いするんだか。

「えっと、ねぇ。十一時に駅前の割烹料理店で。相手の方は、三十八歳の公務員さんね。なんか、向こうの意向でお互いの両親は抜きでしたいらしいそうだよ。」

「うーん。えっと。じゃあ、直接会いに行けばいいのね?」

「そうね。何着ていくの?お着物、用意してあるけど?」

「…いいわ。ワンピース用意してあるから。あと、相手の写真は?」

「写真は無いのよ。」

「えー。なんで?」

「それも、向こうの意向で。直接会ってお話ししたいらしいのよ。まぁ、断ってくれていいお話だから会うだけでいいみたいよ。詳しくは、明日聞いてみてね。」

 何だか随分、適当な感じね。

 まぁ、のんびり屋の両親だしね。

「わかった。まぁ、もう遅いからシャワー浴びて寝るから。お母さんはもう寝てていいわよ。」

「…橙子。」

「何、お母さん。」

「本当に断ってもいいんだからね。あんたが心に決めてる人がいるなら。でも、反対にそのまま話を進めてくれてもいいんじゃないかって思ってるの。」

「…うん。」

「自分の気持ちが一番大切なんだから。こんな田舎にあんたの未来があるとは思わない。でも、この田舎に未来を作ることもできるんだよ。どちらにしても、橙子の心に素直にね。」

 母はそっと笑う。
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