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ここで待ってるから。
第28章 ここで待ってるから。①
〈夏の領分〉


 いつだって、橙子さんの気を引きたくて気にしてほしくて、どんな小さな事でも話をしたし子供のできる範囲でプレゼントだってした。

「橙子ちゃん。ほら、上手でしょう?あげるよ。」

 シロツメクサで編んだ花輪を橙子さんにわたす。

「…ありがとう。」

 十歳の従弟からもらうプレゼントに、弱冠戸惑いながら受けとる。

 今から冷静に考えたら、あんな花の輪っかなんて女子高生にはいらない物だったよね。

 それでも、橙子さんは笑って受け取ってくれた。

 綺麗な落ち葉やどんぐり、松ぼっくり。

 艶々した石や、真ん丸の石。

 ガチャガチャのショボいおもちゃ。

 自分が大切にしていた物を沢山、あげた。きっと、それは橙子さんがいつかここを離れて行く事がわかっていたから。

 それは、自分が置いていかれる事がわかっていたから。

 だから、少しでも繋ぎ止めておきたくて。自分という存在を橙子さんに刻み込みたくて、どうでもよいものを一杯プレゼントしていた。

 大学が受かって橙子さんは一人で東京に行ってしまった。

 小学生に何ができるだろう。

 中学生に勉強や部活以外、何も夢中になんかなれなかった。

 いつか、置いていかれた悲しみよりも大人になって行く周囲に慣れ、橙子さんがいないのが当たり前の日常になっていった。

 忘れていた感情はいつだって真っ直ぐだった。

 ただ、自分が生きていく為に周りに合わせ、飾りたてカモフラージュしていた。

 そうやって、毎日をやり過ごしていた。

 

 高校三年生の冬。

 一年に一度だけ、帰ってくる親戚達。

 その中に、橙子さんがいた。大学を卒業して、就職した橙子さんの仕草や動きに目を離せないでいた。

 笑い顔も。

 話す姿も。

 静かな表情も。

 何も変わっていなかった。

 それが嬉しかったのに。ちょっと、恥ずかしくて照れた自分を見せたくなくて避けていた。

 何気なく触れてきた橙子さんの指先に、自分の中の隠した心がその姿を現した。

 周囲に気取られないように、周りと同じように生きていくための飾りが取り払われた。

 自分の素直な気持ちは、なんて輝いて綺麗だったんだろう。

 それなのに、こんなに独りぼっちにさせてしまって…。

 ねぇ、橙子さん。

 大好きだよ。

 ずっと。小さな頃から。ずっと。
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