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ここで待ってるから。
第28章 ここで待ってるから。①
 地方の大学に入り、絶対に橙子さんの側に行くのを目標とした。

 とりあえず、田舎の輪廻から抜け出し新しい世界に飛び出した。

 それなりに、恋もした。

 人も愛した。

 人に愛された。

 辛いことも、悲しいことも、全て自分には必要な体験なんだと思っていたから。

 どんな出会いも、別れも受け入れられた。




「あら、夏。あんた、就職先みつからないんだって?」

 就職難にはなかなか立ち向かえず、尻込みしながら実家でグダグダしていた。

 母親におつかいを頼まれ、自家製の白菜の漬け物をおばさんの家に持っていく。

 橙子さんのお母さん…おばさんは庭先に沢山のぬいぐるみや本を並べて、日干しをしていた。

「なかなか、難しいです。大学出たからってやりたい仕事に就くには奇跡に近いかも。これ、何してるんですか?」

「橙子の部屋に置きっぱなしになってる物を毎年、日干ししているかいらないか写メで判断してもらってるの。一気にやると大変でしょ?」

 当時、流行っていたアイドルの写真集。漫画。小説。

 小さいぬいぐるみやキーホルダー。

 使いかけのレターセット。

「一年に一度って言っても面倒よね。あ、夏暇ならバイトしてよ。ひとつひとつ写メして。」

 携帯を受けとる。

 おばさんは持ってきた漬け物を持って、中に入っていってしまった。

 仕方なく、青いシートに広げられた小物類を写す。

 端にお菓子の缶が目に入る。

 持ち上げると、カタカタ中に何か入ってる音がする。

 そっと、開けてみる。

 中には、小さなビー玉やおはじき。綺麗な石、すべすべの石。

 プライスチックの変な怪獣の小さな置物。

 薄い紙にはさまれ、ぺったんこになった四つ葉のクローバーや赤茶色の葉っぱ。

 ペンで顔の書かれた、どんぐりのやじろべえ。

 手作りの紙のしおり。

 こんな、がらくたをずっと大切にしていてくれたんだ。

 これは、自分が小さな頃から橙子さんにプレゼントしていた物だった。

 缶の蓋を閉じ、もとにあった所に戻す。

 写真は撮らないでおいた。

 もし、それを見ていらないと判断されたら…。

 もう、迷っていられない。

 自分の気持ちに嘘はつけない。

 今、決断しなかったらきっとこの地から離れられない。

 そして、この気持ちを伝えたい。
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